年齢・性別を問わず薄毛や脱毛症状「AGA」に悩む人が増えています
歳を取れば髪の毛が減る。
仕方がないことと分かっていても、見た目の変化に悩む男性は多いはずです。
女性や若い人でも、薄毛や脱毛症状「AGA」に悩む人は増加傾向にあり、最近では、治療法に関するさまざまな情報がネットの中に溢(あふ)れています。
そこで今回は、その原因や正しい対処法について、脱毛外来を開設している北里大学病院皮膚科の天羽康之先生にお聞きしました。
ヘアサイクルに異常を来すAGA
正常なヘアサイクルが乱れ多量の毛が抜けていく状態を「脱毛症」といいます。脱毛症には円形脱毛症をはじめ、休止期脱毛症、抜毛症、甲状腺疾患や膠原(こうげん)病などによる脱毛症、薬剤や放射線治療による脱毛症などがありますが、皆さんが一番気になるのは男性型脱毛や壮年性脱毛、いわゆる「AGA(エージーエー)」と呼ばれる症状だと思います。
AGAとは「男性ホルモン性の脱毛症」のことです。通常、髪の毛は加齢により徐々に減少しますが、AGAでは早い人で思春期以降に生え際や頭頂部に脱毛症状が現れます。毛髪は目に見える部分の「毛幹」と皮膚の下にある「毛根」に分かれ、毛根を包む「毛包」の根本には毛髪の成長をつかさどる「毛球」があります。毛球は「毛乳頭」を複数の「毛母細胞」が囲む構造になっていて、毛乳頭の司令で毛母細胞が細胞分裂を繰り返すことで毛髪は成長していきます。
毛髪の「成長期」は2〜6年で、それが過ぎると毛球の働きが落ちる「退行期(2〜3週間)」に、そして完全に成長が止まる「休止期(3〜4カ月)」へと移っていきます。正常なヘアサイクルの場合、1日に自然に抜ける髪の本数は70〜80本ほどです。AGAでは2〜6年ある成長期が1年ほどに短縮され、完全に成長しないまま抜けてしまいます。成長期が短いため、毛包も徐々に小さくなり、毛髪自体も細くなるため地肌が透けるようになるのです。
強力な男性ホルモン「DHT」これが脱毛の元凶
AGAの原因と考えられるのが「ジヒドロテストステロン(DHT)」です。DHTは、男性ホルモンであるテストステロンが「5αリダクターゼ」という酵素と結合し生成される強力な男性ホルモンです。DHTがレセプター(受容体)と結合し毛乳頭に作用すると、AGA特有の脱毛症状をもたらします。前頭部や頭頂部には、このレセプターが多く存在しています。DHTと結合するレセプターの感受性には強弱があり、感受性の強い人がAGAになりやすいと思われます。この感受性の強弱には遺伝傾向があります。
女性に同様の症状が起こった場合は「女性形脱毛症」と呼びます。ただ男性に比べてテストステロンの量が少ないため、そこから生まれるDHTも少なく軽症です。発症年齢は40〜50歳以降で男性よりも遅く、症状は生え際を残し頭頂部の比較的広い範囲が薄くなる、びまん性の特徴があります。
治療は発毛剤に内服薬、レーザー照射や植毛も
AGA治療では外用薬や内服剤が使われます。外用薬は頭皮に直接塗るタイプで、「ミノキシジル」が含まれています。ミノキシジルは元来は血管拡張剤でしたが、発毛促進効果が認められたため治療に使われるようになりました。男性用にはミノキシジル5%配合と1%配合があり、女性用は1%配合のみです。医療用だけでなく、薬剤師のいる薬局やドラックストアでは市販薬(第一類医薬品)も販売されています。
内服薬にはDHT生成の抑制効果がある「フィナステリド」と「デュタステリド」があります。投与対象は成人男性のみですが、精子数の減少や射精障害などの副作用のリスクもあります。海外ではミノキシジル配合の内服薬も製造販売されていますが、日本国内では承認されていません。
他にもLEDや低出力レーザー照射、後頭部や側頭部から毛髪を移植する自毛植毛が行われることもあります。治療ではありませんが、ウィッグ(かつら)の利用もQOL改善に役立ちます。
AGAの進行を抑えるには、過度なダイエット、ストレス過多な生活、睡眠不足、喫煙、強いパーマやカラーリング、シャンプーのしすぎなどを避けることが賢明です。高熱を伴う感染症にかかった後はAGAが進行することがあるため、インフルエンザや新型コロナなどへの感染対策も重要です。脱毛症状が急に進行した場合は他の病気が潜んでいる可能性もあります。ひとりで悩まず皮膚科専門医に相談することをおすすめします。
監修:天羽(あもう)康之先生
北里大学病院 皮膚科科長 医学部皮膚科学主任教授 日本皮膚科学会専門医
Column
円形脱毛症の原因はストレス?
「仕事や人間関係上のストレスで円形脱毛症になった」という話、聞いたことはありませんか。円形脱毛症の原因は“ストレス”だ、と思っている人が意外と多いようですが、実は円形脱毛症は自己免疫疾患なのです。
自己免疫疾患とは、本来細菌やウイルスから体を守る免疫機能が、何らかの原因で自分の体を傷つけてしまう病気です。円形脱毛症では毛包に炎症が起き、それを治そうとする免疫機能が毛包を破壊することで脱毛が起こります。
円形脱毛症による脱毛は頭部に1つできることもあれば、複数できることもあります。眉毛やまつげ、ひげなどが抜けることもあります。多くはストレスとは関係なく発症します。
軽い症状なら自然に治癒することもありますが、再発を繰り返したり、脱毛部位が拡大したりする場合は専門医の診察を受けましょう。
健康マメ知識
AGA治療はクーリングオフの対象?
最近、消費生活センターへのAGA治療の契約に関する相談が増加しています。「インターネット広告を見てAGA治療専門クリニックに行き、高額の治療契約を結んでしまった」などの相談が多く寄せられているようです。実際、公的医療保険が適用されず、契約期間が長く、高額になることがありますので、注意が必要です。
脱毛やほくろ除去などの美容治療は、特定商取引法制度によるクーリングオフの対象になりますが、AGAなどの薄毛治療はその対象になっていません。そのため中途解約を可能にする規定も適用されません。どんな契約でも一定期間内ならクーリングオフができると誤解している人が多く見られますが、契約の際には、治療内容とともに支払金額や解約条件などをしっかり確認することが大切です。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2025年2月号) **禁無断転載**
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