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2024年01月15日
【すこやか健保☆定期便のご案内】高齢化ピークの40年代初頭に向け マンパワー不足対応が重要な課題に(1月号)

高齢化ピークの40年代初頭に向けマンパワー不足対応が重要な課題に

現役世代の負担軽減を図るため、高齢者にも能力に応じて負担を求める全世代型社会保障制度への転換は、岸田政権の迷走や未曽有の物価高などを背景に停滞を余儀なくされています。

民生委員や消防団員のなり手不足による地域コミュニティーの崩壊が深刻化する中、高齢化のピークとなる2040年代初頭に向けて単身高齢世帯対策にどう取り組むのか。

現代の「姥(うば)捨て山」を作らないための政策展開は社会保障制度の持続的安定以上に難しい課題かもしれません。

インフレ下の制約

本格的な高齢社会が到来する2025年を目前に控えた24年度は、診療報酬と介護報酬、これに障害福祉サービスを加えると〝トリプル改定〟が行われる節目に当たります。本来なら高齢者を中心に増え続ける医療費の「適正化」に向けた議論があってしかるべきですが、今回の改定論議では公定価格という性格から未曽有の物価高を報酬に価格転嫁できない医療機関や介護事業者、とりわけ介護現場では低賃金からスタッフの確保に苦労する状況を背景に、報酬引き上げが前提になっていた印象です。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は昨年11月、診療所について「極めて良好な経営状況にあり、診療報酬本体のマイナス改定が適当」とする建議を取りまとめましたが、日本医師会は「コロナ禍で落ち込みが激しかった2020年度をベースに比較している」と反発しました。

診療報酬本体に切り込むことはインフレ下でなくとも、過去最低水準の内閣支持率にあえぐ岸田政権ではできない相談でした。岸田首相が強調する「適材適所」人事に説得力がないことは昨年9月の内閣改造後の副大臣・政務官のドミノ辞任でも明らかになりました。内閣改造で日本医師会の政治団体から支援を受ける武見敬三氏を厚生労働相に起用したこと自体、首相の本気度を疑わせ、この時点で診療報酬改定の先行きは見えていました。

「応能負担」の限界

全世代型社会保障制度への転換では高齢者にも「応能負担」を求める改革がポイントになりますが、前途は多難です。介護保険見直しで検討された利用者負担2割対象者の拡大は厚労省の審議会で慎重論が出されたからです。厚労省は2022年10月に導入された後期高齢者医療制度の窓口負担2割引き上げに準じて対象者を広げる案を示しましたが、「これ以上の負担は限界」など、結論を得るには至りませんでした。65歳以上の高所得者の介護保険料負担を引き上げる案が異論なく了承されたのとは好対照です。「マクロ経済スライド」の発動で将来的に年金受給額の目減りが避けられない中、医療保険や介護保険で一般の高齢者に「応能負担」を求めるのは次第に難しくなるとみられます。

単身高齢者世帯が4割に

2022年を起点に高齢化のピークが到来する2040年代初頭までの人口見通し(図表1)をみると、2つの問題点が浮かび上がります。1つは2040年に単身高齢世帯が約900万世帯に上り、高齢世帯の4割を占めることです。もう1つは2035年頃からバブル崩壊後の厳しい経済状況の中で社会人にならざるを得なかった「就職氷河期世代」が高齢者の仲間入りをすることです。

単身高齢者は地域のサポートがないと簡単に社会から切り離され、日常生活の維持が困難となれば最悪の場合「孤独死」に至ります。就職氷河期世代の中には正社員に比べて低賃金の非正規雇用から抜け出せず独身のまま定年を迎える人も少なくないと思われます。そうなると、少ない年金という経済的ハンデから賃貸住宅、介護施設への入居が難しくなるといった問題も出てきます。

厚労省が目指す「地域包括ケアシステム」はマンパワーの活用がカギを握りますが、長年にわたって地域の相談役を担ってきた民生委員のなり手不足が各地で深刻化しています(図表2)。日本人のボランティア精神を生かせる制度を創設するなど、単身世帯を中心に高齢者が安心して生活できる地域社会づくりは喫緊の課題です。

金野   充博

元国際医療福祉大学

総合教育センター長・教授

Column

児童委員も兼務する民生委員

民生委員は法律に基づく非常勤の地方公務員ですが、妊娠中も含め子育てに関するさまざまな支援や相談にあたる「児童委員」も兼務しています。

子育て中の母親が孤立化して育児ノイローゼになるといった、核家族化した現代社会特有の問題もあるだけに、児童委員の定員割れも見過ごせない問題です。

岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」は経済的な支援に偏り過ぎてマンパワーへの視点が欠けている点でも、実効性に疑問を抱かざるを得ません。

健康マメ知識

地域包括ケアシステム

高齢者が住み慣れた地域で生活を全うできるよう、医療・介護提供体制の整備や住宅の確保、高齢者の生活支援を行うマンパワーの養成などを組み合わせた地域づくりを、2025年をめどに進める政府の考え方です。

しかし、24時間体制で患者を受け入れる在宅療養支援診療所が1つもない市町村が全国で3割に上るなど医療資源の偏在が目立ちます。高齢者に住居を貸し渋る問題も改善されていません。マンパワーに目を向けると、民生委員以外にも自然災害時に危険箇所の見回りや情報伝達、住民の避難誘導などを担ってきた消防団員不足も深刻化しています。

地域包括ケアシステムづくりに向けた課題は、目標年次まで残り1年の時点でも山積しています。

提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年3月号) **禁無断転載**

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