お知らせ
2023年09月13日
【すこやか健保☆定期便のご案内】働く人が心がけたい快適な睡眠(9月号)

働く人が心がけたい快適な睡眠

エンゼルスの大谷翔平選手が、侍ジャパンのチームメイトでカージナルスのラーズ・ヌートバー選手から食事の誘いを受けた際、睡眠を理由に断ったことが話題となりました。大谷選手にとって体調管理のため、また、自身のパフォーマンス発揮のために最も大切にしていることが「睡眠」です。

睡眠が日々の生活や仕事にどのような影響を及ぼすかについて、睡眠の専門家である内村直尚(なおひさ)先生に伺いました。

睡眠不足が招くリスク

夜の睡眠が不足すると、翌日に我慢できない眠気が起きたり、体が疲れやすくなったり、イライラしたり、意欲が低下したりします。思考力の低下や集中力、判断力の低下が起こり、現役世代であれば、仕事の能率が下がります。

睡眠不足は、心身の不調を抱えていながら業務を行う状態(プレゼンティズム)の原因の1つで、働く人のパフォーマンスを低下させ、生産性を損なう可能性があります。本来の思考力や集中力、判断力が低下するため、仕事にも悪影響を及ぼします。

分かりやすい例では、睡眠不足が産業事故につながった例が挙げられます。1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故や、スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故も、睡眠不足が関係していたことが指摘されています。日本では2003年にJR山陽新幹線の運転士が、睡眠時無呼吸症候群のために居眠り運転を引き起こした事例があります。

人間が17時間を超えて起きていると、酩酊(めいてい)状態と同等に脳や身体の反応が低下することが明らかになっています。朝6時に起きて23時まで仕事をすれば、事故が起きる可能性は高くなるのです。

勤務時間内で仕事を終わらせることによって、睡眠時間を確保し、翌日の仕事のパフォーマンスを上げることが大切です。24年4月からは、勤務医にも時間外労働の上限規制が適用されます。働き方改革は、睡眠改革と言ってもいいものです。

働く人が心がけたい快適な睡眠のカギ

エンゼルスの大谷翔平選手が睡眠について話すとき、睡眠時間だけでなく、寝る時間帯についても言及しています。大谷選手の場合は、10時間の睡眠と2時間の昼寝を常としているそうですが、20~59歳までは6~9時間、60歳以上は6~8時間が夜の適正睡眠時間です。昼寝は30分以内が妥当だと考えます。人間の体内時計は約25時間で動いています。これを24時間にリセットするためには、規則正しい生活習慣が重要です。

大切なことは次の5つ。

❶朝の光を浴びる

❷起床後2時間以内に朝食を取る

❸日中の運動

❹人との接触

❺昼と夜のメリハリ

(昼間は明るく騒がしく、夜は暗く静かにする)

この5つを守ることが、睡眠の質を保つことだけでなく、自律神経、代謝、内分泌のリズムを守ることにもつながるのです。

特に規則正しい睡眠習慣は大切です。朝起きて光を浴び、15~16時間たつと睡眠を促すホルモン「メラトニン」が分泌されます。つまり、朝起きて15~16時間たたないと眠ることができないのです。大切なことは、朝起きる時間を一定にすること。いつもよりも遅く寝てしまっても、朝はいつもの時間に起きましょう。その日の昼間は少し睡眠不足で調子が悪くても、翌日の夜、いつもと同じように眠れば、睡眠の質が高まり前日の睡眠不足は解消します。

平日の睡眠が不足すると、つい休日に寝だめをしようとします。しかし、睡眠をためることはできません。睡眠負債を返済することができても、ためることはできないのです。足りない場合は、休前日の寝る時刻を早めることで調整しましょう。

もう1つ、夜になると分泌される睡眠を促すホルモン「メラトニン」はブルーライトによって抑制されるため、寝る1、2時間前から、スマートフォンやゲーム、テレビ、パソコンの使用は避けることをお勧めします。照明にLEDを使っている場合は、夜間の照度を落とし、朝は上げるようにすると入眠が早まり目覚めにもよいでしょう。

不眠によるうつ病に注意!

睡眠が不足することによって、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳血管障害、がん、認知症などのリスクが高まることが分かっています。また、食欲を促すホルモンが高まり、甘味に対する味覚を低下させ、肥満の原因にもなるなど、睡眠不足はあらゆる生活習慣病を引き起こす原因ともなり得ます。

また、うつ病にも注意が必要です。不眠の症状がある人が全てうつ病になるわけではありませんが、うつ病の人の8~9割程度に不眠の症状があることは事実です。

うつ病は、脳内の神経伝達物質「セロトニン」の低下が原因の1つと考えられています。眠れないことで夜の「メラトニン」が低下し、昼間のセロトニンも低下。それがうつ病発症の引き金になると考えられます。睡眠時間が5時間以下の不眠の人だけでなく、毎日9時間以上寝ている人もうつ病になりやすいというデータもあり、睡眠とうつ病には、密接な関係があると言えます。

睡眠中はストレスから誰もが解放されています。眠れている間は、少々悩んでいても大丈夫。しかし、眠れなくなってくると、逃げ場がなくなり、ストレスがさらに増えて、心を安定に導くセロトニンの低下を引き起こしてしまうというメカニズムです。生活習慣の見直しは大切ですが、もし週に3日以上眠れないと感じる場合は、躊躇(ちゅうちょ)せず医療機関を受診しましょう。

 

監修:内村 直尚先生

久留米大学学長 医師、医学博士、日本睡眠学会理事長

 

 

Column

世界一短い日本人女性の睡眠時間

厚生労働省のデータによると、日本人女性の平均睡眠時間は、7時間00分です。これは、男性の平均睡眠時間よりも30分短く、年齢別に見ると、20~30歳代よりも40~50歳代、60歳代と、年齢とともに短くなっています。

一方、OECD(経済協力開発機構)の調査では、日本人の平均睡眠時間は38カ国中最短です。ということは、40歳代から60歳代の日本人女性の睡眠時間は、世界一短いと考えられます。日本人女性の睡眠時間が短い理由として考えられることに、仕事や家事などの負担が大きいことが挙げられます。

近年、女性活躍推進がうたわれていますが、睡眠が足りない状態では、活躍しようにも実力を発揮することができないのではないでしょうか。

今以上に女性の活躍を期待するのであれば、40歳代から60歳代の女性が適正睡眠を取れるような環境を整えることが大切です。

その意味で、男性の育児休業の取得や、2022年に新設された出生時育児休業の取得などは、もっと推進されてよいものです。女性の活躍推進には、十分な睡眠時間の確保という視点が不可欠です。

健康マメ知識

睡眠の質を悪化させるお酒やたばこ

よく眠れると、入眠のためにアルコールを摂取する人がいますが、これは間違い。アルコールはたしかに眠気を誘うのですが、摂取後3、4時間経過するとアセトアルデヒドという覚醒物質に変化するため、深く眠ることができなくなります。依存症を引き起こすきっかけとなり得ますので、眠ることを目的としたアルコール摂取はやめましょう。

ただし、晩酌時にリラックスするために飲む適度な量のアルコールはOK。早めに夕食をとりながらの適量の晩酌には、睡眠にも良い効果があります。適量とは、純アルコールで20g。日本酒であれば1合(180㎖)、ビールであれば500㎖、ウイスキーであればダブル1杯(60㎖)、ワインであればグラス2杯(200㎖)程度のことを指します。入眠3時間前には飲み終えるようにし、できれば週2日、少なくとも週1日は休肝日を設けるようにしましょう。

たばこには覚醒作用があります。寝る前はもちろん、夜中に目が覚めたときの喫煙も控えてください。

問い合わせ先

保健事業チーム TEL:052-880-6201 E-mail:jigyou@chudenkenpo.or.jp