ビールや肉食だけじゃない ストレスや激しい運動も「痛風」の原因に!
痛風は、肉食中心の食生活や過度の飲酒が原因と考えられ、以前は〝ぜいたく病〟〝帝王病〟などと揶揄(やゆ)されることもありました。
しかし現在では、その発症原因は食だけでなく、ストレスや体質、生活習慣にもあることが分かっています。
今回は、痛風の臨床と研究に尽力されてきた山王メディカルセンター院長で、痛風・尿酸財団の理事長もされている山中寿先生に伺いました。
痛風発作の原因はプリン体から生まれる尿酸
「痛風なんて中高年男性の病気。自分はまだ若いから大丈夫」と思っていませんか。近年、痛風の発症年齢は若年化しており、20歳代後半から増え始めて40歳代が最多数となっています。つまり働き盛りの男性が特に注意したい病気が痛風なのです。痛風が女性に少ないのは、女性ホルモンが尿酸の排せつを促すためと考えられ、女性ホルモンが減少する更年期以降は注意が必要ですが、男性に比べるとずっと少ないのが特徴です。
痛風と聞いて思い浮かぶのは、突然足の親指の関節が腫れ、激痛に襲われる「痛風発作」です。痛風発作の多くは足の親指に起こりますが、足首周囲にも起きることがあり、治療しないと重症化し、ひじや手指、ひざなどの関節に起こることもあります。我慢できない痛みが数日続きますが、徐々に痛みは消えていきます。症状が収まったことに安心して放置すると、その後発作を繰り返し、重度の慢性痛風に進行します。
この痛風発作を誘発する物質が「尿酸」です。人の体は古い細胞から新しい細胞へと新陳代謝を繰り返しています。これに伴ってDNAやRNAなどの遺伝子を構成する核酸から放出されたプリン体が分解すると、最終的に尿酸になります。そのほか、生命維持に欠かせないエネルギーの源であるATP(アデノシン3リン酸)も最終的に尿酸に分解されます。このように、人の体の新陳代謝の過程でプリン体から生成される老廃物が尿酸です。
尿酸塩と白血球の攻防が痛風発作を引き起こす
尿酸の元となるプリン体は7〜8割が体内で作られ、2〜3割が食品から摂取されます。通常1日0.6gほどの尿酸が作られますが、余分な尿酸は腎臓でろ過され、ほとんどが尿として、一部は消化管から便として排出されます。この排出機能が低下したり、作られる尿酸が増えすぎたりすると血液中の尿酸の量を示す「尿酸値(血清尿酸値)」が高くなります。
尿酸は血液に溶けにくい性質があり、一定量を超えると血液中のナトリウムと結合して「尿酸塩」という結晶になり、関節や皮下、腎臓などに蓄積します。尿酸塩が増えすぎると、免疫機能を担う白血球がこれを異物と見なして排除しようとします。このときに起こる症状が痛風発作で、白血球の働きが激しくなればなるほど、患部は腫れ、痛みもひどくなっていきます。
尿酸値の正常値は4.0〜7.0mg/dlで、7.0mg/dlを超えると「高尿酸血症」と診断されます。痛風治療に用いられる「6-7-8のルール」では、薬物治療中の目標値を6.0mg/dl以下とし、7.0mg/dl超なら高尿酸血症で、8.0mg/dl超を薬物治療を検討する目安としています。
発作が起きる前に生活習慣を改める
尿酸値が上昇する要因は、遺伝的要因と環境的要因に分かれます。痛風は遺伝病ではありませんが、尿酸や尿酸の排出に関わる遺伝子が存在することが分かっています。環境的要因には、「食生活」「飲酒」「運動」「生活スタイル」「他の病気」「薬剤」などがあります。
食生活では、尿酸値上昇の原因となるプリン体を多く含む食品の摂取を控えることが必要です。しかし、肥満の人は、肥満度が上がると尿酸値も上昇し、高血圧や脂質異常症を合併することが多いので、プリン体に特化した食品制限よりも肥満の解消のほうが重要です。
飲酒では、アルコール摂取自体が尿酸値上昇につながるので適量にとどめましょう。ビールはプリン体を多く含んでいますが、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒はプリン体をほとんど含みません。ただしどのお酒でも飲みすぎると尿酸値が上がることに注意してください。
肥満解消や健康維持のために運動でも注意すべき点があります。ハードな筋トレや無酸素運動は尿酸値を上昇させるため、ウォーキングや水泳などの有酸素運動がおすすめです。また働きすぎやストレス過多の生活も尿酸値上昇につながります。ストレス解消にはお酒や長時間のカラオケなどではなく、心体ともにリラックスできる時間を作りましょう。他の病気や常用している薬やサプリメントなどがある場合は、主治医に相談してください。
痛風は、尿酸値が上昇してもすぐには症状が現れません。高尿酸血症が長く続いた後に、ある日突然体験したことのない激痛に襲われる病気です。20歳を超えた男性は定期的に尿酸値を確認し、7・0mg/dlを超えたら、早めに医師に相談してください。
尿酸値を上手にコントロールするためのポイント
①肥満の解消は最重要事項です
②飲酒はほどほどに。休肝日をつくりましょう
③1日2L以上の水分補給を
④運動は軽い有酸素運動を
⑤毎日のストレスは上手に解消を
監修:山中寿先生
山王メディカルセンター 院長
公益財団法人 痛風・尿酸財団理事長
Column
プリン体含有量が多い食品、少ない食品
プリン体を多く含む食品には、牛・豚・鶏レバー、牛肉や豚肉、イワシやアジなどの干物、白子、アンコウの肝、車エビ、タコなどがあり、酒類ではビール、紹興酒、ワインなどです。
逆に少ない食品は、プリン体をほとんど含まない鶏卵をはじめ、米、パン、そばなどの穀類、野菜・果物類、海藻類、豆腐などです。酒類も焼酎、ウイスキー、ブランデーなどの蒸留酒はビールなどに比べると少ないです。
ただ食品から摂取するプリン体は生成量全体の2〜3割であることや、大切な栄養素が含まれている食品も多いことなどから、該当する食品を排除するのではなくバランスよく摂取することが大切です。
←詳しくは痛風・尿酸財団のHP「食品・飲料中のプリン体」をチェック!
健康マメ知識
痛風の歴史は長い!
痛風の歴史は長く、エジプトで発掘されたミイラの関節から尿酸塩が見つかったという記録があり、古代ギリシャの「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスも痛風に関する報告をしています。西洋ではアレクサンダー大王、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ニュートンなども患っていたなじみ深い病気でした。
戦前の日本では、裕福な人がかかる“ぜいたく病”といわれていました。当時の庶民の食事は、主食のご飯に一汁一菜と極めて質素でした。今でいう生活習慣病対策向けの食事です。しかし経済発展とともに食習慣が肉食中心へと大きく変化し、痛風も一般化しました。近年では食に加えて生活スタイルが大きく変化したためか、発症年齢も40歳代から30歳代へと若年化傾向にあります。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年9月号) **禁無断転載**
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