50代からの「声筋(こえきん)」ケアとトレーニング
最近、声が出にくくなったと感じることはありませんか。
加齢によるものだから仕方ないと放置していると、誤嚥(ごえん)などの健康被害を引き起こす原因にもなります。
普段のケアとトレーニングでできる改善方法を、音声言語医学を専門とする渡邊雄介先生に伺いました。
声筋の衰えが健康状態を左右する
若い頃に比べて、声がかすれたり、高い声が出にくくなったと感じている原因の多くは、加齢によって声を出す筋肉「声筋」が弱くなってきたことにあると考えられています。
声筋は、声を発する上で最も重要な働きをしている「声帯」の筋肉群の総称で、渡邊先生が考えた造語です。声筋は筋肉ですから、年齢を重ねるにしたがって自然に弱くなります。声がかれたり、老け声になったり、話す途中で咳をしたり、食事中にむせたりするのは、声筋が弱っているからです。
喉の主な役割に、「呼吸、飲み込み、発声」があります。喉の力が衰えると起こりやすい健康危機に、次の4つがあります。
①息が続かない
あ声帯がピタッと閉じなくなり、声を出す時に息漏れすることで
あ息苦しさを感じるようになります。
②誤嚥しやすくなる
あ誤嚥してむせ込むことが多くなります。
③よい声が出なくなる
あ声帯が老化すると老け声になり、老け声が恥ずかしくて人と話さなくなると
あ認知機能の低下にもつながります。
④いざという時に力が入らない
あ力を込めるとき人は無意識に喉を締めています。
あ喉の力が衰えると踏ん張りがきかず転倒したりする危険性も高くなります。
「あーテスト」で声筋の状態を把握
声筋の衰えは、男女問わず30歳頃から始まります。政治家や教師、歌手、声優など、声を頻繁に使う職業は、声帯結節や声帯ポリープなどの音声障害を起こしやすくなります。また、喫煙者は、タールや熱い煙が喉を通ることで、声帯に悪影響を及ぼします。閉経後の女性は、女性ホルモンの減少によって、高い声が出にくくなったり、声がかすれたりすることがあります。高齢者は、体内の水分量が減少することで、声帯が乾燥してきれいに振動できなくなり、声が出にくくなります。
まずは現在の声帯の健康状態を把握するために、「あーテスト」を行ってみましょう。まずはリラックス。大きく息を吸って、「あー」と長く声を出します。男性で30秒、女性で20秒ほど声を出し続けることができれば健康だと判断できます。15秒以下だと老化のサイン、10秒以下の場合は耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。ストロボスコープがあり、言語聴覚士が2名以上いる医療機関であれば、診断もスムーズにできます。
「の⤴の⤵発声法」で声筋を鍛える喉の乾燥を防ぐ保湿ケアも大切
次のチェックリストで3つ以上当てはまる人は、意識して声筋を鍛えましょう。
声筋を鍛える代表的なトレーニングを2つご紹介します。
声筋は鍛えるだけでなく、ケアをすることも重要です。もっとも大切なケアは保湿。喉の潤いが保たれていなければ、声筋は衰え、老け声になってしまいます。喉をスチームで潤したり、こまめに水分補給をするなど、喉を乾燥から守りましょう。
喉はとても小さな部位ですが、鍛えることで全身の健康や健康寿命の延伸にもつながります。ぜひケアとトレーニングを続けてください。
監修:渡邊 雄介先生
山王メディカルセンター 副院長
国際医療福祉大学 東京ボイスセンター長
近著『毎日10分 長生き風呂カラオケ』(中央公論新社)
Column
コロナ禍による声筋への影響
2020年3月に発令されたコロナ禍の緊急事態宣言以降、人々のコミュニケーション機会が激減しました。話す相手も機会もなくなり、声を出す回数が減ったことで、喉の筋肉が衰え、ボイスセンターを訪れる患者さんは約2割増えました。
患者さんの中には、声がかれる、食べ物を飲み込むときにむせるといった症状を訴える方が多くいます。特に、歌が歌えない、声が出にくいといった症状を訴える人が増えています。また、以前は長時間話すことができた人でも、10分程度で疲れてしまうと訴える方もいます。
これらは、喉の筋肉が衰えた結果、声の質が低下したことであらわれた症状だと考えられます。
しかし、一時的な不調は、リハビリを行うことで機能回復する可能性があります。
このような症状を感じた方は、専門の医療機関を訪れることをお勧めします。
健康マメ知識
声筋に負担をかける9つのNG
喉を守ることは全身の健康を守ることにもつながります。普段の生活から、次の声筋に負担をかけるNG習慣を避けるように心がけましょう。
①タバコを吸う:タールだけでなく、熱も喉にダメージを与えます。
②過度な飲酒:度数の高いアルコールは喉の粘膜を硬くし、喉に負担がかかります。
③咳払いの癖:左右の声帯が激しくぶつかり、傷つける可能性もあります。
④早口で話す:喉の緊張が続くと、過緊張性発声障害を引き起こす要因になります。
⑤血行が悪い:血行不良で声帯がむくむことがあります。
⑥甘いものや脂肪分の多い食べ物を食べ過ぎる:胃酸逆流で喉に炎症が起こる可能性があります。
⑦しゃべりすぎる:乾燥など、喉に負担がかかります。
⑧口呼吸をする:特に寝ているときの乾燥に注意が必要です。
⑨頻繁に裏声を使う:声帯を少し開けた状態で振動させる裏声は、頻度を少なくしたほうが負担が軽くなります。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年8月号) **禁無断転載**
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