お知らせ
2024年06月14日
【すこやか健保☆定期便のご案内】腸内細菌の働きを最大化する 「腸活」戦略(6月号)

腸内細菌の働きを最大化する 「腸活」戦略

腸内細菌が、生活習慣病のほか、睡眠やストレス、認知症やうつ病にまで関わっている可能性が明らかになっています。
どうすれば腸内細菌とヒトが良好な共生関係を築けるのか。
薬学博士の國澤純先生に伺いました。

健康維持に欠かせない腸内細菌

私たちが食べたものは、ぜん動運動を行う胃や腸で消化吸収され、最終的には排泄物として体外に排出されます。また、腸内には、体の半分以上の免疫細胞が集まっており、体全体の免疫バランスを調整する役割を果たしています。例えば、ヨーグルトを食べると花粉症になりにくくなったり、肌の状態が良くなったりするのは、腸内の免疫細胞が働いているからです。

以前は、腸内細菌の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やすことが良いと考えられていました。しかし、Aを食べたとき、ある菌は体に良い物質を生成しますが、Bを食べたときは同じ菌が体に悪い物質を生成することがあります。つまり、菌は、基本的には「善玉」でも「悪玉」でもなく、私たちが何を食べるかによって私たちの体に与える影響が変わるということです。

腸内細菌は、1つの菌だけではできないことも、ほかの菌と一緒になることで有用に働くことができます。そのため、多様な細菌がバランスよくいる腸内環境をつくることが大切です。逆に、特定の菌が多い偏った状態では、病気の原因になるのではないかと考えられています。

免疫細胞は体全体を動き回ることができ、腸から吸収された成分も血流に乗って体全体に運ばれます。腸内の健康は、体全体の健康と密接に関わっているのです。これが、バランスのよい食生活や適度な運動などによって腸内環境を整える「腸活」が大事だといわれるゆえんです。

腸活のポイントは3つ!

食べるものが変われば、腸内細菌が変わり、体質が変わってきます。腸内環境の改善には、「良い菌をとる」「菌が喜ぶエサをとる」

「菌のリレーをサポートする」という3つの「腸活」戦略が必要です。

良い菌をとる方法は、とてもシンプル。良い菌であるビフィズス菌・乳酸菌・糖化菌・酢酸菌・酪酸菌がたくさん含まれるヨーグルトや納豆などの発酵食品を食べる、ということに尽きます。菌の多くは「通過菌」で基本的に腸内にいるのは3日間~2週間といわれているため、これらの菌を継続的に食べることが大切です。

良い菌をとるだけでなく、菌が喜ぶエサを与えることも大切です。良い菌が喜ぶものは水溶性食物繊維と難消化性オリゴ糖。エサが不足すると、腸管の内側を覆う粘液を食べてしまう菌もいますので、安定的な供給が重要です。大麦や海藻類、タマネギ、ゴボウ、バナナ、豆類、牛乳などが菌のエサとして有用です。

腸内細菌は食物繊維をエサにして、私たちの体によい働きをする短鎖脂肪酸などの物質(ポストバイオティクス)を生み出します。ただし、この反応には複数の菌が必要になるときがあります。例えば、食物繊維が分解されてつくり出された糖を材料に乳酸菌は乳酸を、ビフィズス菌は乳酸と酢酸を、プロピオン酸菌や酪酸菌などのほかの菌は、乳酸や酢酸からプロピオン酸や酪酸を生み出します。この菌のリレーをサポートするには、ビタミンB1などの摂取も重要です。

腸内環境を整えるには

腸内環境は人によって違い、食べたものによって変化します。腸内細菌には既得権があり、腸内の席数は決まっていて、新しく入ってきた菌が既存の菌を押しのけるには時間がかかります。まずは自分の腸内細菌の状態を知り、増やしたい菌のために何を食べるべきか考えて食事を取るようにすると良いでしょう。

自分の腸内細菌の状態を知る方法としては、遺伝子検査などの科学的な方法がありますが、現状ではそれなりの費用と時間が必要です。ざっくり知るには、硬い、普通、軟らかいといった便の硬さと形状から判断する方法があります。今後、研究が進み、手軽に検査できるキットなども市販されるようになることを期待しています。

監修:國澤 純先生
薬学博士/国立研究開発法人
医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長

Column

菌のリレーを支える「ポストバイオティクス」とは?

ポストバイオティクスとは、私たちが食べたものを材料に、腸内細菌が健康に良いものにつくり変えてくれるという考え方です。例えば、玄米のおにぎりと納豆とヨーグルトを食べるとします。玄米には食物繊維と、菌のリレーをサポートするビタミンB1が多く、納豆には食物繊維を糖に分解する納豆菌が豊富です。ヨーグルトには糖から乳酸や酢酸を生み出すビフィズス菌や乳酸菌が含まれています。

ポストバイオティクスをうまく利用する方法としては、「自分の腸内で、ポストバイオティクスが生み出されるのをサポートする」方法と、「ポストバイオティクスの成分の入った食品やサプリメントをとる」方法の2つがあります。いずれの場合も極端な食生活はせず、いろいろなものをバランスよく取ることが肝要です。

健康マメ知識

腸内細菌も影響? ファーマコマイクロバイオミクス

健康に良いとされる食べものを摂取しても、逆に体調不良を引き起こすことがあります。これは、食べたものを適切に分解できる腸内細菌が不足していたり、体に有害な成分に変換する菌が存在したりすることが原因かもしれません。

腸内細菌は、飲み薬の効果にも影響することがあるようです。例えば、パーキンソン病の薬がだんだん効かなくなってしまった人の腸内細菌を調べると、有効成分を腸内細菌が分解してしまっていたという例が報告されています。この場合は、特定の腸内細菌の働きを抑える薬を一緒に飲む必要があります。また、漢方薬には腸内細菌の働きで効果の出方が変わるものが多くあることが知られています。

この領域は「ファーマコマイクロバイオミクス」と呼ばれていて、現在、薬の効果に対する腸内細菌の影響についての研究が進められています。腸内細菌の情報をお薬手帳に掲載し、薬の処方を最適化する時代も近いかもしれません。

提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年5月号) **禁無断転載**
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