お知らせ
2023年04月17日
【すこやか健保☆定期便のご案内】『ペインクリニック』どんな治療をする診療科と思っていますか(4月号)

「ペインクリニック」どんな治療をする診療科と思っていますか

ペインクリニックといえば、これまでは大きな医療機関で見かける特別な診療科というイメージがありました。

それが最近では身近な医療機関にも増えています。

でもどんなときに受診したらよいのでしょうか。

内科や整形外科などなじみのある科と違って分からない、そんな人が多いのではありませんか。

日本ペインクリニック学会の専門医であり、湘南藤沢徳洲会病院の痛みセンターで日々治療に取り組む木村信康先生にお話を伺いました。

痛みは不可欠な感覚だが体にとって不要な痛みも

もともと痛みは、体を守るために生まれつき備わっている感覚です。痛みを感じることでケガや異常に気付き、悪化を防ぐため安静にしたり、病院で治療したりすることができるのです。もし痛みを感じなければ、ケガをしても病気になっても分からず、気付かないうちに悪化し手遅れになってしまいます。つまり痛みは人が生存するために必要な感覚です。しかし、痛みの中には長く続く痛みもあります。後で述べますが、3カ月以上続くような痛みは体にとって不要な痛みです。

〝ペイン〟は英語で「痛み」を意味する言葉ですから〝ペインクリニック〟は「痛みの治療を行う医療機関」のことを指します。

痛みの治療というと不思議に思うかもしれませんが、痛みを放置すると痛みが増大するだけでなく、さらに新たな痛みや症状が派生することがあります。長く続く不要な痛みは我慢するものではなく、早めに的確な治療を行うべき症状です。

また、痛みは本人にしか分からない感覚でもあります。それが痛みという症状を扱う上での難しさだといえます。

痛みの悪循環から破局的思考への進行に注意

痛みは「急性痛」と「慢性痛」に分けられます。急性痛は概(おおむ)ね1カ月以内に回復する痛みで、3カ月以上続くのが慢性痛です。長期間続く痛みは、体の異常を知らせるという痛み本来の目的とは離れた〝不要な痛み〟といえます。

不要な痛みである慢性痛は、〝痛みの悪循環〟という考え方で捉えることができます。これはどういうことかというと、ケガなどをすると痛みの物質が作られます。これが知覚神経を刺激し、脊髄から脳へと信号が伝わって人は痛みを感じます。脳は痛みを感じると、交感神経と運動神経を刺激してケガなどが広がらないように血管や筋を収縮させます。これにより血液の流れが阻害されて酸素不足が起こり、局所でさらなる痛みの物質が生まれて痛みがさらに強くなっていきます。この負のサイクルが〝痛みの悪循環〟です。

加えて痛みの強い慢性痛は、患者さんの痛みに対する不安や恐怖を増幅させ〝痛みの破局的思考〟に陥らせます。常に痛みのことばかり考える「反芻(はんすう)」、痛みが拡大したり痛む場所が増えたりする「拡大視」、痛みで気力が湧かなくなる「無力感」、この3つが痛みの破局的思考を生み出します。こうなると動くと痛む場合には必要以上に動かなくなって寝たきりになってしまったり、不安や恐怖にさいなまれてうつ症状を発症してしまったりと、状況を悪化させることになります。

痛みと症状の軽減に有効な神経ブロック治療

ペインクリニックが治療を行う病気は、腰や下肢の痛みを伴う椎間板ヘルニアや圧迫骨折、脊柱管狭窄(きょうさく)症から、三叉(さんさ)神経痛、帯状疱疹(ほうしん)痛、帯状疱疹後神経痛、頭痛、首や肩の痛み、変形性膝関節症などに至るまで全身にわたります。こうした病気の慢性痛に悩んで受診した場合、ペインクリニックでは内服薬や外用薬を使った治療のほか、「神経ブロック」という特徴的な治療を行います。

神経ブロックとは神経の周囲、または中に局所麻酔薬などを注射して、痛みの信号を脳に伝わりにくくする治療法です。痛みの信号を頭に伝わりにくくすることで、痛みの部位の血流を改善させ、先ほどの〝痛みの悪循環〟を断ち切ることが狙いです。神経ブロック治療は体の部位に応じて約30種類ありますが、使用頻度の高い神経ブロックには、硬膜外ブロック、星状神経節ブロック、神経根ブロックなどがあります。ただし、全ての痛みに神経ブロックが有効なわけではありません。温めると痛みが軽減する、痛みの範囲が限定的で明確である、といったケースに効果が期待できますが、痛みの範囲がはっきりしない、日によって痛む部位が変わるなどのケースにはあまり効果が期待できません。

すでに慢性痛になってからの治療は、軽減するまでに長期にわたる治療が必要になります。痛みが続いたり、異常な痛みを感じたりした場合は、できるだけ早くペインクリニックを受診されることをお勧めします。

監修:木村 信康先生

湘南藤沢徳洲会病院

痛みセンター(ペインクリニック)主任部長

ペインクリニック専門医

Column

ペインクリニック専門医とはどんな医師?

特集の監修者である木村信康先生が持つ「ペインクリニック専門医」とは、どんな資格なのでしょうか。

痛みに関する分野の進歩・発展と、その知識や技術の普及を目的として活動する日本ペインクリニック学会が、痛みの診断と治療のスペシャリストであると認定する資格がペインクリニック専門医です。資格取得には麻酔科をはじめとする専門医の資格取得と、学会の認定する医療機関で一定期間、痛みに関する知識と技術の習得に努めたという実績が必要です。その後、学会の専門医認定試験に合格することで取得できます。

ペインクリニック専門医が在籍しているかどうかは、日本ペインクリニック学会のホー

ムページで公開しています。近くの医療機関を選択する上での目安にしてください。

健康マメ知識

がんの疼痛緩和にも関わるペインクリニック専門医

2人に1人が経験するといわれるがん。がんにはさまざまな症状がありますが、“痛み”は多くの人が経験するつらい症状です。すでにがんと診断された患者にとって痛みは、いわば“必要のないもの”です。痛みは食欲や睡眠を阻害して症状の改善を遅らせ、治療に対する積極的な気持ちや生きる希望をも奪うことになりかねません。痛みの状態を主治医に伝え、がん治療と並行して痛みの治療も行う必要があります。

WHO(世界保健機関)は1986年に、がんの痛みは治療可能で、患者は痛みの治療を十分に受ける必要があると発表しています。現在、がんはチーム医療が主体ですが、外科や内科、放射線科などとともに、神経ブロックを用いた疼痛(とうつう)軽減を中心とした緩和ケアの面でペインクリニック専門医が大きな役割を果たしています。

提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年4月号) **禁無断転載**

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