制度疲労が目立つ社会保障制度 新政権に迅速な意思決定を期待
自民党と日本維新の会の連立による高市新政権の発足で、国政は転換点を迎えました。社会保障制度改革は新政権で最重要課題の1つに位置付けられていますが、世代間や関係団体の利害得失が複雑に絡み合い、実現は容易ではありません。抜本改革論議から難産の末に生まれた今の仕組みは制度の持続的安定につながらず、“制度疲労”が目立ちます。新政権には大胆かつスピーディーな意思決定が求められます。
5割に迫る高齢者医療費
1997年8月に自民、社民、新党さきがけ3党が合意した医療保険制度の抜本改革は、老人保健制度に代わる後期高齢者医療制度の創設やDPC制度(急性期入院医療を対象にした診療報酬の包括評価)の導入といった形で実を結びましたが、医薬品を薬効ごとに分類して医療保険からの支払いに上限を設ける日本型参照価格制の導入は医療機関や製薬業界の反対で見送られました。
自社さ3党合意から後期高齢者医療制度が動き出した2008年4月までをファーストステージと位置付けると、この間、高齢者窓口負担の定額制から定率制への切り替えや、被用者保険の窓口負担を国民健康保険と同じ3割に引き上げる見直しも行われました(図表1)。

これで本格的な高齢社会への備えができれば良かったわけですが、高齢化の圧力はすさまじく、3党合意時に30兆円弱だった国民医療費は2023年度に48兆915億円に達し、このうち65歳以上の医療費は60.1%、75歳以上に絞ると39.8%を占めるに至りました。
75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度は、その財源の約4割を現役世代からの“支援金”に頼る仕組みです。健保組合の支出に占める支援金は2割を超え、65~74歳の前期高齢者への“納付金”を合わせた高齢者医療全体の支出は4割を超えています。現役世代の負担軽減は喫緊の課題です(図表2)。

見直し効果は限定的!?
制度改革のセカンドステージは、安倍晋三・元首相が2018年に打ち出した「全世代型社会保障」の構築に向けた取り組みです。この時、①原則1割の後期高齢者窓口負担の2割引き上げ②外来の窓口負担に一定額を上乗せする「受診時定額負担」の導入③市販薬で代用できる医薬品の医療保険適用除外――が主な論点になりましたが、今日までに日の目を見たのは窓口負担の2割引き上げだけです。
しかも、受診抑制への懸念から対象を一定以上の所得がある層(全体の23%、約370万人)に絞ったほか、昨年9月までの3年間は1カ月の負担増が3000円を超えないよう激変緩和措置が取られました。新たな仕組みが定着するまでには時間がかかります。老後の主たる生活資金である公的年金が人口減少を背景に目減りしていく中、負担増を伴う改革は難しさを増しています。
問われる「公助」の在り方
自民党と日本維新の会が結んだ連立政権合意書には、①OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し②医療費窓口負担における真に公平な応能負担の実現――などについて、25年度もしくは26年度中に具体的な制度設計を行うことが明記されました。とはいえ、維新が求める「OTC類似薬の保険適用除外」や「高齢者窓口負担の一律3割引き上げ」の取り扱いは未定です。
維新の最終目標は「国民医療費の年4兆円削減と現役世代の保険料年6万円減額」ですが、国民医療費の削減は窓口負担引き上げや病床数削減といった改革メニューを組み合わせても実現は至難の業。1点10円の診療報酬単価を9円に切り下げれば話は別ですが、一筋縄ではいかない目標です。4兆円を医療保険制度全体の被保険者数で除した年額6万円の数字を鵜呑みにするわけにはいきません。
医療保険制度の持続的安定には「公助」(税負担)の在り方の見直しがカギを握ります。消費税率の引き上げが難しいのであれば、社会保障に充当する特定財源を追加する発想があってもいいはず。古くて新しい課題について“小田原評定”を続けるだけでは埒が明かず、制度の破綻は免れません。
監修:金野 充博 先生
元国際医療福祉大学総合教育センター長・教授
Column
いつから「高齢者」?
自維連立政権合意書には「高齢者」の定義見直しも盛り込まれました。65歳以上を高齢者と定義し、前期高齢者(65~74歳)と後期高齢者(75歳以上)に分ける考え方が定着していますが、日本老年学会等2団体は2017年1月、「前期高齢者」は「准高齢者」に、後期高齢者を二分して75歳から89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」と定義し直すよう提言。健保連も昨年9月に前期高齢者の年齢区分を「70~74歳」に改めるよう求めました。
ただ、定義が見直されると、公的年金の支給開始年齢が65歳から引き上げられるのでないか、65歳から74歳までは介護保険から外されるのではないか、と危惧する向きがあるのも事実です。国民の不安を払拭するためにも、定義の見直しに当たっては政府の丁寧な説明と幅広い層を巻き込んだ議論が不可欠です。
健康マメ知識
OTC類似薬とは
医薬品は医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」と、処方箋がなくとも薬局などで購入できる「一般用医薬品」に大別されます。後者はカウンター越しに薬を手渡す欧米での販売形態「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」から「OTC医薬品」とも言われます。
医療用とOTCには含まれる成分や薬効が同等のものがあります。花粉症薬や保湿剤などOTC医薬品で代用できる医療用医薬品(OTC類似薬)が保険給付から外れれば医療保険財政にはプラスですが、患者負担は増えます。患者が医療機関を受診せず市販薬を使った場合、隠れた疾患を見逃したり症状の重篤化を懸念する向きもありますが、医療保険を使えば薬を安く購入できる仕組みを見直し、国民の意識を変えなければ医療費適正化は進みません。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2026年1月号) **禁無断転載**
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