高齢男性だけじゃない! 女性や若者にも広がる頻尿の悩み
トイレが気になってバスや電車に乗るのが怖い、旅行が楽しめない、映画やコンサートで中座してしまう、仕事や家事にも集中できない……。
こうした頻尿の悩みを抱えていませんか?
泌尿器科専門医として年間3万人以上の患者と向き合い著書やYouTubeでも尿トラブルに関する発信をされている伊勢呂哲也先生に予防や症状の改善などをお聞きしました。
日中、8回以上排尿するのは「頻尿」
最近、テレビやネットなど多くの媒体で取り上げられる「頻尿」という病気、どんな症状を指しているのか知っていますか。頻尿とは、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上ある状態を表します。ただ排尿回数には個人差があるため、8回以下でも生活に不便や不安を感じていれば頻尿だといえます。
腎臓で作られた尿は一時的に膀胱にためられ、一定量を超えると膀胱が収縮し尿道を閉じていた筋肉(尿道括約筋)が緩み、排出されます。正常な膀胱は400mlほどの尿をためることができ、200〜300mlほどたまると尿意をもよおし、400mlほどになるとトイレに行きたくなります。
以前は高齢男性に特有の病気だと思われていましたが、女性や比較的若い人にも多く、今では頻尿は40歳以上の2人に1人が悩んでいるといわれています。頻尿は自然治癒せず、徐々に症状が重くなります。やがて日常生活に悪影響を与えるようになり、患者のQOL(生活の質)が下がっていきます。
男性は前立腺肥大、女性は過活動膀胱に注意して
頻尿の原因で多いのは、男性なら「前立腺肥大症」、女性なら「過活動膀胱」です。
前立腺は、尿道を取り囲むくるみ大の男性特有の臓器で、前立腺が肥大すると尿道が圧迫され尿の出が悪くなります。そしてこの状態が続くと膀胱の神経が過敏になり、尿がたまっていなくても尿意をもよおすようになります。
過活動膀胱は膀胱の神経が過敏になることで尿意が頻繁に起きる病気で、尿を我慢できない「尿意切迫感」が特有の症状です。男性では前立腺の肥大が主な原因ですが、女性の場合は加齢に伴って排尿にかかわる膀胱機能が低下することが原因と考えられます。これには膀胱が十分に膨らまず、尿をためられなくなる「膀胱の柔軟性の低下」、尿が十分たまっていないのに膀胱が収縮して排尿への動きを始めてしまう「膀胱と尿道の連携の誤作動」、加齢で膀胱や尿道を支える筋力が低下する「骨盤底筋の衰え」などが関係しています。
また、膀胱の機能や尿量は正常でも緊張すると尿意をもよおす「神経性頻尿」もあります。普通にトイレに行ける状態では起こらない尿意が、乗り物での移動中、映画やコンサートなどトイレに行きにくい状態になると起こります。
予防と症状の改善は、生活習慣の見直しから
頻尿に悩んだ場合は、泌尿器科を受診してください。まず膀胱炎や前立腺炎、尿管結石などの尿路感染症、前立腺がんや膀胱がんなど重篤な症状につながる病気の有無を確認する必要があります。病気が見つかればその治療を行い、見つからなければ生活スタイルや食習慣の改善を目指す「生活指導」、尿道括約筋の働きを改善する膀胱訓練、膀胱や尿道を支える骨盤底筋を鍛えるトレーニングなどの「行動療法」を行います。これで改善しない場合は「薬物療法」を行い、症状によっては「手術」が検討されることもあります。
重篤な症状に陥ることは少ない頻尿ですが、QOLの低下は深刻です。まずは生活習慣の見直しとセルフケアが大切。そこでお勧めなのが「排尿日誌」です。これは1日の排尿時刻、排尿回数、排尿量、尿もれの有無、水分摂取量などを記録する日誌です。排尿日誌で自分の排尿状態を把握することが頻尿改善への第一歩になります。その上で「水分や塩分のとり過ぎに注意」「カフェインやアルコールを含む飲み物は控えめに」「辛い、酸っぱい食品はほどほどに」などを心がけ、膀胱訓練や骨盤底筋を鍛えるトレーニングを行いましょう。
ただし膀胱炎や前立腺炎、尿管結石、前立腺がんや膀胱がんなどの病気でも頻尿の症状が出ることがあります。尿の色や臭いがいつもと違う、発熱や排尿時の痛み、血がまじるなどの症状がある場合には、すぐに泌尿器科専門医がいる医療機関を受診してください。
監修:伊勢呂 哲也先生
医療法人インテグレス 理事長 大宮・上野・池袋・新橋で4つのクリニックを経営。
泌尿器科認定専門医の資格を持ち、年間3万人を診察している。
Column
就寝中何度もトイレに起きる、夜間頻尿
就寝中に1回以上トイレに行く状態を「夜間頻尿」といいます。ただ実際の診療現場では、2回以上の患者さんは病的な夜間頻尿だと診断します。夜間頻尿は夜間の尿量が増える「夜間多尿」と、膀胱の機能低下で尿がためられない「畜尿障害」に大別されます。ほかに排尿機能は正常にもかかわらず、睡眠障害が原因で目が覚めるたびにトイレに行くというタイプもあります。畜尿障害より夜間多尿が多く、患者さんの約8割を占めています。
夜間頻尿は排尿で睡眠が中断されるため、睡眠不足に陥ってQOLを大きく低下させるだけでなく、高齢者の場合はトイレへの移動で転倒につながるケースも少なくありません。どのタイプの夜間頻尿も、薬で治療することができますので、諦めずに医療機関に相談しましょう。
健康マメ知識
いつ起こるか分からない尿もれの不安
尿もれ(尿失禁)には、くしゃみやせきをしたとき、重いものを持ち上げたときなどに起こる「腹圧性尿失禁」、トイレに間に合わずもれてしまう「切迫性尿失禁」があり、この2つを併発するのが「混合性尿失禁」です。
前立腺肥大や糖尿病などの合併症で排尿機能が低下し膀胱に大量にたまった尿がもれ出る「溢流性尿失禁」もあります。進行すると腎不全を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
ただ尿もれに悩みながら治療をしない人が多いのも現実です。歳だから、体質だから仕方がない、泌尿器科へ行くのは恥ずかしい、などと考えてしまう人が多いようです。まずは勇気を持って受診し、自分の症状を把握することが大切です。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2025年7月号) **禁無断転載**
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