健保からのお知らせ

2021/06/14

【すこやか健保☆定期便のご案内】人生100年時代心身を診る 統合医療としての漢方医学(6月号)

健康保険組合連合会の刊行誌「すこやか健保」より、みなさまに有用な情報を「すこやか健保☆定期便」として定期配信いたします。(毎月15日頃配信予定)

今回は、「統人生100年時代心身を診る 総合医療としての漢方医学!」です。

みなさまの健康リテラシーの向上にぜひお役立てください。

人生100年時代心身を診る 統合医療としての漢方医学

西洋医学を前提に、東洋医学などを組み合わせて心身を診る「統合医療」。

西洋医学と東洋医学の考え方の違い、「キュアからケアへ」といわれるようになった背景などについて統合医療の視点でお伝えします。

お話をうかがったのは、西洋医学の知見と東洋医学の知見の両面から患者さんの心身を診る医療者であり、東京女子医科大学附属東洋医学研究所所長、漢方専門医の木村容子先生です。

身体機能の低下をポジティブ・エイジングに

 「統合医療」という考えは、厚生労働省の『「統合医療」のあり方に関する検討会』で提唱された「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」であり、東洋医学もこれを支える重要な柱の一つです。

 また、高齢社会を背景に「人生100年時代」といわれるようになり、医療の考え方も「キュア中心からケア中心へ」と変化し、統合医療の重要度が増しています。疾病の治癒と生命維持を主目的とするキュアから、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指すケアへ。

 心身の不調をうまくやりくりしながらの生き方に寄り添う医療として、統合医療があります。特に漢方医学では、2千年前から、人間の体のピークは女性が28歳、男性が32歳とされ、それ以降は緩やかに低下していくと考えられています。そうであれば、高齢者でなくてもケアの視点は大切。身体機能の低下を悲観するのではなく、低下を緩やかにしながら生きることを「ポジティブ・エイジング」といいます。

「未病」を治療する漢方医学は「ケア」が得意

西洋医学とは、いわゆる現代医学のことをいいます。一般的に、病気の原因を臓器別に診るため、脳外科、循環器科、消化器科など科ごとに受診することになります。

 一方で漢方医学は、古代中国で発達した伝統医学を源とし、日本で独自の発展を遂げた医学体系のことをいいます。「心身一如」(心と体は切り離せない)という考え方をもとにし、1人の患者さんを全体で診ながら、心身全体のバランスを整える医療を行います。本格的な病気になる前の、いわゆる「未病」も治療対象としており、漢方医学的な診断に基づいた「ケア中心」の治療を行うことも特徴の一つです。

 漢方医学では、自覚症状があれば気のせいではないと考えます。例えば、「関節が痛い」という訴えが全てリウマチと診断されるわけではありません。疾患にはそれぞれ定義があり、それに当てはまると病名がつくのです。しかし、診断がつかない人がすべて健康な人ではないでしょう。

 漢方医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」が滞りなくめぐっている状態を健康と考えます。気・血・水に過不足があったり、めぐりが滞っていると何らかの不調が現れると考えます。「ちょっとヘン」では遅い。違和感になる少し前、「ヘン」の「ヘ」の段階で対応することが大切だと考えるのです。

違いを知り、それぞれのよいところを取り入れる

 日本で使われる漢方薬の9割は植物由来の生薬です。生薬は昔から「上薬」「中薬」「下薬」とされ、「上薬」は健康増進のために使われる薬、「中薬」は体質改善を目的に使われる薬、「下薬」は、効果は強いが副作用も強い薬とされています。西洋医学で処方される薬は下薬に当たることがお分かりになるでしょう。

 漢方医学では「医食同源」といい、薬と食材の間に明確な線引きをせず、ショウガやシソといった食材が薬の材料として使われます。しかし、症状を緩和させるに値する量を食事で取ることは難しいため、成分を濃縮した漢方薬で効率的に摂取し、症状が回復したら食事で補うよう指導します。「食養生」という考え方です。漢方薬は生薬エキスを、サプリメントは有効成分を抽出して用いるところに違いがあります。

 日本では、漢方医学に携わる医師は全て西洋医学を学んでいるため、両方の視点から、1人の患者さんの全体を診ることができます。日本東洋医学会のホームページでお近くの専門医を探すこともできます。

 西洋医学のよいところ、漢方医学のよいところを上手に取り入れながら、心身のケアを心がけていきましょう。

一般社団法人日本東洋医学会  http://www.jsom.or.jp/universally/index.html

監修:木村容子

医師/東京女子医科大学附属東洋医学研究所所長

Column

技術の進歩で明らかになるか? 漢方薬の可能性

 東洋医学の歴史の中で、漢方薬は2千年以上前から使用され、その薬効は、長い歴史と豊富な臨床経験に裏付けされてきました。しかし、それだけでなく、近年、日本では、個々の漢方薬がどのように効くのかといったメカニズム(作用機序)について、科学的根拠を解明する研究が進められています。

 蓄積された漢方薬のデータや診療データを、AI(人工知能)を用いて解析することで、データに裏付けされた有用性の研究、漢方独自の概念である「証(あかし)」の科学的解明などが研究されているのです。

 東北大学のグループが、世界で初めて、科学的根拠に基づいた漢方薬に関する高齢者の診療ガイドラインを作成したのは2016年のこと。これにより、より一層漢方薬の適正使用が広がることが期待されるなど、技術の進歩が医療における漢方薬の可能性を広げつつあります。

提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2021年6月号) **禁無断転載**

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