便秘は病気?慢性便秘症の治し方
日本における便秘の治療は、長い間、医師による経験的治療に頼っていました。
しかし、2017年に「慢性便秘症診療ガイドライン」が作成されると、慢性便秘の診断と治療の選択が国際水準に引き上げられ、科学的根拠に基づいたものとなりました。
標準化された慢性便秘症の分類、治療等について、ガイドライン作成委員でもある水上健先生に伺いました。
便秘の診断基準ができた
「慢性便秘症診療ガイドライン」の登場で、これまで経験的に行われてきた慢性便秘の診断と治療選択が、科学的根拠に基づいたものとなり、診断基準と治療の選択について、全国の医療現場で共通の考えを持つことができるようになりました。
ガイドラインにおける慢性便秘の定義は、「本来、体外に排出すべき糞(ふん)便を十分量かつ快適に排出できない状態」とされています。つまり、出すべきものを十分に、快適に出すことができているのであれば、回数や量は問題ではないというわけです。
極端なことをいえば、1カ月に1度の排便であっても、十分な量を快適に出すことができていれば、それは便秘症ではありません。
逆に、毎日排便があっても、便秘と下痢を繰り返したり、強くいきむ必要があったりといった、何らかの困難を伴うようであれば、それは慢性便秘症といえるかもしれません。
慢性便秘症診療ガイドライン(2017年)では、慢性便秘症の診断基準を次のように定めています。
1.「便秘症」の診断基準
6項目のうち、2項目以上を満たすこと
a 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b 排便の4分の1超の頻度で、兎糞(とふん)状便または硬便である。
c 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞(へいそく)感や排便困難感がある。
e 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f 自発的な排便回数が、週に3回未満である。
2.「慢性」の診断基準
6カ月以上前から症状があり、最近3カ月間は上記の基準を満たしていること。
気を付けたい便秘症
便秘には、症状が出始めてから6カ月未満の急性便秘と、6カ月以上の慢性便秘があります。
急性便秘には、器質性便秘(大腸がんや直腸軸捻転症など、確認できる病変がある)と、機能性便秘(排便の機能低下が原因で起こる)があり、腹痛や発熱、血便などがある場合は医療機関を受診しましょう。
器質性の慢性便秘では、大腸が狭められ、通りにくくなることで便秘となる狭窄(きょうさく)性の便秘と、非狭窄で排便回数が減少するもの、そして直腸瘤(りゅう)や直腸重積などが原因の排出困難が考えられます。
機能性の慢性便秘の場合は、原因のはっきりしない突発性便秘や、ストレスで大腸がけいれんし、強い腹痛を伴う便秘型過敏性腸症候群(IBS)、同じようにストレスにより大腸がけいれんして腹痛のない便秘を招くけいれん性便秘などのほか、薬の副作用による薬剤性便秘があります。
普段は快便だが、なぜか旅行中は便秘になるというのは、けいれん性便秘によるものです。
ガイドラインでは、慢性便秘症の中でも、機能性便秘を便が大腸を通過する時間で「大腸通過遅延型」「大腸通過正常型」、直腸や肛門機能障害の骨盤底筋協調運動障害などを「機能性便排出障害」と分類しています。
便秘になりやすい体質には、①ストレスで大腸がけいれんして排便回数が減る体質と、②腸の形が原因で便がひっかかりやすい体質があります。①の場合は、自身の体質を理解するだけでも症状が軽くなる可能性があります。病院の予約を入れただけで、便秘が治る方もいるほどです。ねじれ腸(大腸が異常にねじれている)や落下腸(骨盤の中などに腸が落ち込んでいる)など②の場合は、腸を揺らすような運動やマッサージが効果的です。
快適排便の生活習慣
疾患が原因の便秘症以外、慢性便秘症の多くは、生活習慣病の意味合いが強いと考えられます。便秘症の治療でまず行うべきことは、食事、運動、排便習慣などの生活習慣の改善です。
便秘に食物繊維が良いと聞くと、そればかり食べるなど、結果的に食生活が偏ってしまう人も多いようです。食物繊維の1日の摂取量の目標は20g。適量を心掛けましょう。排便リズムも含め、身体のサイクルを支えるのは、バランスの取れた食生活です。たくさん食べると便もたくさん出ます。できるだけ決まった時間に1日3食のバランスの取れた食事を心掛けましょう。
運動は本当に大切です。便秘解消を目的にするなら、お腹をひねる・揺らすといった運動がいいでしょう。テニスやゴルフのほか、フラダンスもお勧めです。ただ、頑張りすぎて長続きしないようでは意味がありません。そこでお勧めなのが、ラジオ体操です。難しければ、下っ腹をゆらゆらさせるマッサージでもよいでしょう。
また、便意を感じたら我慢せずトイレに行く習慣をつけることも大切です。便意がなくても、1日1回は食事の後にトイレへ行ってみましょう。特に朝食後は自然な排便が起きやすいタイミングですが、夕食後でも大丈夫。目安は3分程度。頑張りすぎないことが大切です。
健康管理のためにも、便潜血検査などの検便検査は、毎年受診し、検査で陽性が出たら、必ず精密検査を受けるようにしましょう。
監修:水上 健先生
独立行政法人国立病院機構
久里浜医療センター内視鏡部長
Column
腸管形態異常が便秘症の原因?
便秘症に悩む患者さんの内視鏡検査を行っていると、「ねじれ腸」や「落下腸」といった腸管形態異常の方が多いことが分かります。特に日本人に多く見られ、便秘の原因が腸の形にある方も多いのです。
大腸が異常にねじれている「ねじれ腸」の人は、運動不足だと便が腸のねじれに引っ掛かり、慢性的に便が溜まっている状態になります。「落下腸」の人は、大腸が骨盤の中に落ち込み圧迫されるため、腸がつぶれて通りが悪くなります。いずれも便を出すためには大腸が強く動く必要があり、痛みを伴うことも多くなります。
腸管形態異常は体質ですので、日頃から大腸を揺らすような運動やマッサージを行い、腸の通りをよくしておきましょう。運動は、便秘予防だけでなく、心肺機能や生活習慣病の改善のためにも有効です。
健康マメ知識
下剤の正しい活用方法
2000年以前の論文には、「便秘の人に大腸がんが多い」という報告があり、いまだに誤解されている方も多いようですが、現在では、便秘と大腸がんは関係がないということが定説になっています。
ただし、便秘の人で大腸がんのリスクを増加させてしまう要因があります。それは、下剤の使い方です。東北大学が行った研究によると、下剤を週2回以上飲む人は、全く飲まない人に比べると大腸がんの発生リスクが2.76倍に増加していました。また、不適切な下剤使用は、弛緩(しかん)性便秘という下剤便秘を起こし、治りにくい便秘の原因にもなります。
便は出すべき量を十分かつ快適に出せればOKで、量や回数が少ないこと自体は問題(便秘)ではありません。まずは生活習慣の見直しから。下剤の利用は医師と相談して、慎重に行いましょう。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年2月号) **禁無断転載**
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