見えてきた社会保障制度改革の全体像 安定財源の確保が試金石に
「団塊の世代」(1947〜49年生まれ)が全員後期高齢者となる2025年に向けた社会保障制度改革の全体像が見えてきました。医療・介護では「全世代型」制度への転換に向け、高齢者の応能負担強化による「現役世代の負担軽減」を柱に据え、年金は加入期間の5年延長を打ち出しました。
しかし、一連の見直しで高齢化のピークとされる2040年まで制度の持続的安定が実現できるのかどうか。
安定財源確保の道筋が見えない中、心もとなさは否めません。
負担軽減は1人当たり年1000円前後
後期高齢者医療制度では、2008年度の制度創設以降、現役世代が拠出している支援金の伸びが高齢者保険料の増え方を上回っている状況(図1)であり、これを改善する取り組みが急務です。政府は高齢者保険料の上限(22年度は年間66万円)を年間80万円まで引き上げるとともに、一定以上の所得がある高齢者の保険料負担を増やす方針で、24年度からの実施を目指しています。厚生労働省の試算によると、75歳以上の保険料は1人当たり平均年4000円増える一方、現役世代の保険料は健保組合で同1000円、協会けんぽで同800円、共済組合で同1100円、国保で同300円それぞれ軽減されます。
政府は65歳以上の介護保険料も引き上げる方向です。介護保険料は国が定めた基準額(21~23年度は全国平均月6014円)をベースに所得に応じて増減され、9段階ある保険料の最上位は基準額の1・7倍、最下位は基準額の0・3倍となっています。政府は保険料区分をより細分化して高所得者ほど負担を増やしたい意向です。
消費税率引き上げで恒久財源確保を
年齢区分ではなく支払い能力(応能負担)を原則にするのは「全世代型社会保障」の大前提ですが、一連の見直しで制度の財政状況が大きく改善するわけではありません。後期高齢者で保険料負担が大幅に増えるのは年収1000万円といった人に限られ、全体の1%程度に過ぎないからです。昨年10月から始まった後期高齢者窓口負担2割引き上げも、現役世代は25年までの4年間で3100億円の負担が軽減されるとはいえ、この間の後期高齢者支援金は10倍超の3兆2000億円にも上ります(健保連推計)。2割引き上げの対象を「単身者で年収200万円以上」と絞り込んだ結果、現役世代の負担軽減は微々たるものになりました。
「応能負担」といっても対象者を少数に絞り込めば、〝焼け石に水〟にしかなりません。窓口負担割合や保険料引き上げには限界がある以上、恒久財源を確保するためには岸田首相が封印している消費税率引き上げをそろそろ検討すべきです。政府は23年度から実施する出産育児一時金(現在42万円)の引き上げ財源に後期高齢者の保険料の一部を充てる方針ですが、首相が表明した子ども関連予算の倍増を実現させるのであれば、財源を社会保険料への上乗せではなく消費税率引き上げに求めるのが最も現実的です。後期高齢者の医療も消費税率を引き上げて公費をいま以上に投入しないと、高齢化がさらに進む中で制度の持続的安定は望めません(図2)。
ゆらぐ年金の政府公約
2025年を見据えた改革の中で最も議論を呼びそうなのが、国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を現行の40年間(20~60歳)から5年延長する案です。少子・高齢化の進展で、政府が約20年前に公約した厚生年金の所得代替率50%維持は年金支給額をカットするマクロ経済スライドの導入もあって怪しくなり、基礎年金額の低下が特に懸念されるからです。しかし、国民年金保険料の未納・滞納(空洞化)問題や、夫がサラリーマンでその専業主婦が独立して年金保険料を納めていない第3号被保険者問題を放置したまま保険料の納付期間延長を打ち出しても、国民の理解は得られません。
公的年金は高齢者所得の約7割を占め、後期高齢者医療や介護保険の保険料は原則年金から天引きされています。公的年金の揺らぎは社会保障制度全体に関わる問題だけに、制度の根幹に関わる見直しを行う場合は丁寧な説明が求められます。
金野充博(こんの みつひろ)
元国際医療福祉大学総合教育センター長・教授
Column
根強い国民の大病院志向
後期高齢者の一定以上の所得がある方の窓口負担2割引き上げと合わせて実施されたのが、紹介状を持たずに大病院を受診した際に、定率の窓口負担とは別に徴収が義務付けられる保険外負担(選定療養費)の最低金額の引き上げです。
昨年10月からは、特定機能病院や200床以上の地域医療支援病院に専門性が高い病院が徴収対象に加わり、負担額も初診は「5000円以上」から「7000円以上」に引き上げられました。
保険外負担の徴収義務化は2016年度に始まりましたが、国民の大病院志向は根強く、3年前の調査では、紹介状なしが平均で初診患者のなお4割強を占めている状況でした。
健康マメ知識
負担の限界と公費の役割
医療保険制度は「負担と給付の公平」が基本理念とはいえ、加入者の年齢構成や所得水準の違いによって負担の不均衡が生じます。不均衡は「公費の投入」や「保険者間の財政調整」によって是正され、後期高齢者医療制度や市町村国保は給付費の半分が公費(税金)で賄われています。協会けんぽは給付費の16.4%が公費ですが、健保組合は財政が窮迫している組合に対する個別の補助金があるだけです。
高齢者と現役世代間で不均衡を是正するだけでは、おのずと限界があります。高齢者医療費の増大に伴い、高齢者、現役世代双方の保険料の引き上げが避けられなくなり、医療費適正化への大きな財政効果は期待できません。したがって公費負担割合を早晩引き上げないと、制度の存続が危ぶまれます。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2023年1月号) **禁無断転載**
すこやか健保は健康保険組合連合会ホームページより一部ご覧いただけます。関連リンクよりご覧ください。
問い合わせ先
保健事業チーム TEL:052-880-6201 E-mail:jigyou@chudenkenpo.or.jp