健康保険組合連合会の刊行誌「すこやか健保」より、みなさまに有用な情報を「すこやか健保☆定期便」として定期配信いたします。(毎月15日頃配信予定)
今回は、「30歳代から始まる「老眼」慌てずうまく付き合うためにあらかじめ知っておくこと ! 」です。
みなさまの健康リテラシーの向上にぜひお役立てください。
30歳代から始まる「老眼」慌てずうまく付き合うためにあらかじめ知っておくこと
老眼は、「近い距離で新聞や本が読みにくくなる高齢者の症状」と思っていませんか。
実は30歳代から始まっているのです。
近年、スマホやタブレットが不可欠な存在になりオフィスでも家でもパソコンを使う人が増えています。
こうした生活スタイルの変化は目の酷使につながり、目に大きな影響を与えています。
今回は、明治14年創立、〝眼の総合病院〟として眼科医療の発展とともに歩んできた井上眼科病院の井上賢治先生に伺いました。
老眼は病気ではなく加齢が原因
老眼は病気ではなく、早い人は30歳代から始まる加齢現象です。つまり誰もが避けて通れないのが老眼です。眼科医療では「老視」と呼びますが、ここでは一般に広く使われている「老眼」と表現します。
通常、私たちは物を見るとき、その距離に応じてピントを自動的に調節しています。カメラに例えるなら、光を通すレンズが〝水晶体〟で、このレンズの厚さを調節してピントを合わせるのが〝毛様体筋〟です。毛様体筋が緊張(収縮)したり緩んだりすることで、近くを見るときは水晶体を厚く、遠くを見るときは薄くして、網膜できちんとピントが合うように調節しています。
しかし、年齢を重ねるにつれて水晶体が硬くなり、毛様体筋が収縮しても厚さを変化させることができなくなってきます。これが老眼です。水晶体を厚くすることが難しくなり、近くのものにピントを合わせることができなくなるので、手元が見えづらくなるという特徴的な症状が現れるのです。
「近視の人は老眼になりにくい」という通説があるようですが、加齢による老化は誰にでも起こります。近視の人でメガネをあまり使用しない方は、もともと近くのものにピントが合っている状態なので、水晶体の厚さを変える必要がなく、老眼に気付きにくいのかもしれません。
多くの人が30歳代後半からすでに始まっている
年齢や生活環境の違いで個人差はありますが、30歳代後半から40歳代前半で老眼を感じるようになり、60歳を過ぎる頃まで症状は進行します。最近ではスマホの使用頻度が増えたことにより、10、20歳代の若者が一時的に老眼と同じような症状を発症する〝スマホ老眼〟と呼ばれるケースも起きています。
通常の老眼は加齢により徐々に進行していくため、明確な発症時期を特定することは難しいのですが、新聞や本を読む際に、今まで読んでいた距離ではピントが合いづらくなり、距離を広げると読みやすくなることから「老眼かな?」と感じる人が多いようです。
老眼の初期には次のような症状が多く現れます。
- 裸眼あるいはメガネやコンタクトレンズで遠くが見える状態で近くを見るとぼやける
- ピントが合いにくいことが増えた
- ピントが合っても長続きしない
- 目が疲れやすい
- 目がかすむ
- 目が疲れて頭痛や肩凝りがある
放置すると眼精疲労から心身に大きな影響が
現在、老眼に対する治療法はありません。だからといって放っておくのも賢明ではありません。先ほど紹介した初期症状は、老眼だけでなくドライアイや白内障、緑内障など他の眼病のシグナルである場合があります。見え方や目に異状を感じたら、自己判断は避け、眼科医の診察を受けましょう。
老眼と診断された場合でも、メガネやコンタクトレンズを使ってきちんと矯正することが大切です。老眼鏡をかけると老眼が進むと思って矯正を避ける人がいますが、60歳過ぎまでは老眼鏡を使う、使わないにかかわらず老眼は進行します。そのままにしておくと、頭痛や肩凝りなどの症状に加え、目は脳機能と密接な関係を持っていることから眼精疲労の深刻度が増し、心身に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
また老眼の矯正は個人の生活スタイルに合わせて行うことが重要です。例えば運転を頻繁にする、パソコンを長時間使う、読書が趣味である、など使用頻度が多い距離に合わせてメガネやコンタクトレンズの見え方を調整するといいでしょう。
避けることができない老眼ですが、人間は周囲から得る情報の約8割を目から得ているという報告があります。加齢によるQOV(クオリティ・オブ・ビジョン=見え方の質)の低下を少しでも食い止めるためには、普段から目をいたわる生活を心掛け負担を減らすことが大切です。QOVの維持は一人ひとりのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)にも大きく貢献するはずです。
監修:井上賢治先生
医療法人社団済安堂 理事長
井上眼科病院 院長
Column
年代に関係なく起こる“スマホ老眼” とは
最近、20〜30歳代前半の人に、スマホの文字がよく見えない、かすむ、視線を上げるとピントが合わないなど、老眼のような症状を訴えるケースが増えています。これを「スマホ老眼」と呼びます。スマホやタブレットなどの画面を長時間見続けることで起こる症状で、加齢性の老眼とは異なります。
至近距離でスマホの画面を見続けると、水晶体を厚く保つために常に毛様体筋が緊張を強いられた状態が続きます。そのため毛様体筋が凝り固まった状態になり、スマホから目を離すとピントが合いにくくなるのです。こうした生活は眼精疲労を起こし、頭痛や肩凝りなどの慢性化につながります。スマホを使う際にはできるだけ30cm以上離す、長時間連続使用をしない、意識的にスマホを見ない休憩時間を作る、などを心掛けてください。
健康マメ知識
“眼科ドック”を知っていますか?
健康診断や人間ドックを健康管理に役立てている人は多いと思います。ただ失明原因の多くを占める緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性などは通常の健康診断ではなかなか発見することができません。そのため目に特化した「眼科ドック」を実施する医療機関が増えています。
眼科ドックは予約が必要で、検査時間は2時間程度、健康保険は適用外です。
「視力検査」から緑内障の診断に有効な「眼圧検査」「視野検査」、斜視や斜位を調べる「眼位検査」、老眼などが分かる「調節機能検査」、視神経や黄斑部、網膜血管を調べる「眼底撮影」「三次元眼底解析検査」、ドライアイが分かる「涙液検査」ほか多くの検査が行われます。検査結果は2週間前後で分かり、必要に応じて治療へとつなげていきます。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2022年11月号) **禁無断転載**
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