健康保険組合連合会の刊行誌「すこやか健保」より、みなさまに有用な情報を「すこやか健保☆定期便」として定期配信いたします。(毎月15日頃配信予定)
今回は、「40代から始めたい 認知症予防の生活習慣! 」です。
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40代から始めたい 認知症予防の生活習慣
いま、認知症は予備群も含めると高齢者の4人に1人。
治療も予防も難しいとされてきましたが、アミロイドβの蓄積がアルツハイマー型認知症に影響を及ぼすことや、中年期からの生活習慣の見直し・改善は、一定程度の予防効果があることなど、さまざまなことが分かってきました。
認知症治療、予防の最新情報についてアミロイドβ研究の第一人者である西道隆臣先生に、認知症治療、予防についてお話を伺いました。
そもそも認知症ってなに?
認知症とは、病気の名前ではなく、さまざまな原因によって認知機能が低下し、これまでできていた知的活動ができなくなった状態や症状のことをいいます。認知症の基本的な症状は、記憶障害、見当識障害、失語、失認、失行、遂行機能障害などです。
認知症にはいくつかの種類があります。アルツハイマー型認知症は、認知症の7割を占めるといわれ、脳神経の変性により脳の一部が萎縮していく過程で起きる認知症です。原因物質のアミロイドβが、発症の25年ぐらい前から蓄積し始め、長い時間をかけて発症します。
2割程度が、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を原因とする脳血管性認知症です。脳血管性認知症に関しては、ある程度、予防できることが分かっています。予防医療の浸透で、認知症の5割以上が脳血管性認知症だった時代を経て、現在は2割にまで減っています。
残りが、パーキンソン病に非常に似た症状が現れるレビー小体型認知症、認知症の中で唯一難病指定を受けている前頭側頭型認知症等の認知症です。
認知症って治療できるの?
認知症の中には、治療すると治るものもあります。正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症や、ビタミンB1欠乏症・ビタミンB12欠乏症・葉酸欠乏症、内科的疾患によって起きる認知症などがそうです。
例えば、ビタミンB12欠乏症の場合、食生活の偏りなどでビタミンB12が欠乏すると認知症に似た症状が現れます。認知症の原因がビタミンB12の欠乏であれば、ビタミンB12を投与することで治ります。
また、正常圧水頭症という病気があります。これは、脳脊髄液の吸収がうまく行われなくなることが原因で起こる認知症で、外科的手術で治ります。正常圧水頭症の典型的な症状には、歩行困難がありますので、認知症のような症状が出て、歩行困難が出てきたら、正常圧水頭症を疑います。
問題は、これらの認知症を正しく診断できる臨床医が少なく、治る可能性のある認知症の多くが、アルツハイマー型認知症と誤診されている可能性があることです。
認知症でなくても、気になる物忘れの症状が出たら、認知症専門医の診察を受けるようにしてください。日本認知症学会や日本老年精神医学会のホームページには、認知症について特別に学んだ「専門医」の情報が掲載されています。ご自身の通いやすい病院を探し、初期の段階から認知症専門医にかかることで、誤診の確率は下がると考えます。
残念ながら、全国的に、認知症の専門医はまだまだ足りていません。治る認知症が見逃されている現状を考えると、全国に専門医を増やし、認知症医療のレベルアップを図る必要があるでしょう。
認知症予防のためにできること
治療可能な認知症がある一方で、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの変性性認知症は、現段階では、根本的な治療法は確立していません。しかし、認知症の研究は日進月歩で進んでいます。認知症になるのを遅らせる、認知症になっても進行を緩やかにするといった予防のための行動は、とても大切です。
これまでの研究から、アルツハイマー型認知症を発症した方の多くに、中年期の肥満がみられます。発症時の肥満ではなく、中年期の肥満です。ということは、中年期からの運動習慣や定期的な身体活動が、アルツハイマー型認知症を含む認知症の発症率を低下させることに寄与すると考えられます。
適度な運動、バランスの良い食事、良質な睡眠、そして心地よい会話や余暇活動を楽しむことを心掛けましょう。高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病はきちんと治療しておくようにしましょう。熱中症から脳梗塞を発症し、認知症につながるケースもあるので、熱中症にも注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群といった睡眠障害のほか、頭部外傷が認知症の発症リスクを高めるという報告もあります。スポーツをする人は特に頭部の打撲に気をつけましょう。喫煙も認知症の危険因子です。
認知症、特にアルツハイマー型認知症は、遺伝的因子と環境的因子の組み合わせで、発症、症状ともに一般化しづらい要素がたくさんあります。近い将来、アルツハイマー型認知症の治療も、がん治療で進む個別化医療の領域に進んでいくのだろうと考えます。治療薬の研究も進んでおり、この分野は急激に進歩しています。
メモをとれば生活には困らない程度の認知機能低下状態を、軽度認知障害といいます。認知症の前段階ですが、診断された後でも、予防的生活をすることで認知症の進行を遅らせることは可能です。
監修:西道隆臣先生
理化学研究所脳神経科学センター・神経老化制御研究チーム チームリーダー
Column
認知症の予防に昼寝は効果的?
アルツハイマー型認知症の危険因子であるアミロイドβの濃度は、睡眠不足によって上昇することが分かっています。一部の研究では、睡眠中はアミロイドβがたまらず、決まった時間の十分な睡眠がアミロイドβの除去にも有効とされています。
これを前提に、睡眠不足を補うという意味で、「認知症の予防に昼寝は有効」ということができるでしょう。15分や30分といった短時間の昼寝がよいでしょう。いったん昼寝をしたら何時間も起きられない人は、すでに脳の機能が低下している可能性があります。何時間も昼寝をするのではなく、昼寝は長くても30分くらいにとどめる。また夜は規則正しい睡眠を心掛けましょう。普段から同じ時間に寝て、同じ時間に起きる生活をし、寝不足だと感じたら30分くらい昼寝をするという生活が、認知症の予防にも効果的だと考えられます。
健康マメ知識
歯のケアは認知症の予防にも
虫歯や歯周病を治療せずにいると、歯を失うだけでなく、さまざまな病気を引き起こす恐れがあります。例えば歯周病は、心臓病や糖尿病に影響を及ぼすことが分かっています。心臓病や糖尿病は、認知症の発症にもつながる生活習慣病ですので、口腔ケアは認知症予防にも役立つといえるでしょう。
近年の認知症に関する研究で、歯のないマウスと歯のあるマウスを比較した場合、歯のないマウスではアミロイドβのたまる量が増え認知能力が悪くなったという報告がありました。アミロイドβに関しては検証が待たれますが、歯でかむことは、脳の活性化にもつながり、認知症の予防効果も期待できます。歯科検診等を積極的に利用し、口腔内の健康にも注意したいものです。
提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2022年9月号) **禁無断転載**
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