お知らせ
2022年5月15日
【すこやか健保☆定期便のご案内】「不妊治療」を受けやすい職場環境を! (5月号)

健康保険組合連合会の刊行誌「すこやか健保」より、みなさまに有用な情報を「すこやか健保☆定期便」として定期配信いたします。(毎月15日頃配信予定)

今回は、「『不妊治療』を受けやすい職場環境を! 」です。

みなさまの健康リテラシーの向上にぜひお役立てください。

「不妊治療」を受けやすい職場環境を

2022年4月から、不妊治療における体外受精などの基本治療は、全て保険適用されることになりました。

治療を希望するカップルの経済的な負担が軽減されることは期待できますが、不妊治療の悩みは、治療費だけではありません。

職場での理解が進まず、治療自体を断念せざるを得ないこともよくあることなのだそうです。

東京大学医学部附属病院で患者さんの悩みに寄り添ってきた不妊症の診療のエキスパート、原田美由紀先生にお話を伺いました。

 

不妊治療とは?

不妊症とは、健康な男女のカップルが避妊をせずに通常の性生活を続けた場合に、1年以上たっても妊娠しない状態のことをいいます。

不妊症の原因は、男性が4割、女性が4割、原因不明が2割程度と考えられています。男性因子、排卵因子、卵管因子、頸管因子、子宮因子に加え、原因が特定できない原因不明不妊もあります。

不妊治療は女性特有のものと思われがちですが、男女半々に原因があるため、初期のスクリーニング検査では、男性と女性のそれぞれが検査を行うことが望ましいでしょう。

男性の場合は、精液検査を行います。女性の場合は、血液検査、超音波検査、X線検査など、検査だけで少なくとも4回の受診が必要になります。女性の月経周期に合わせて検査や治療を行うため、通院日程の調整は難しくなります。比較するものではありませんが、男性より女性の側に検査・治療による心身の負担感があることは否めません。

不妊治療には、「一般不妊治療」と「生殖補助医療」があります。排卵日を診断して性交のタイミングを合わせるタイミング法、排卵誘発法、人工授精などの一般不妊治療では妊娠しない場合に、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を行います。

不妊治療の悩み

不妊治療の悩みの多くは、職場や家族に不妊治療中であることを告げられずに通院している方が多いことに起因しているように感じます。通院のために仕事の休みを取っていても、月経周期によって治療に適した日がずれることはよくあることです。せっかく休みを取って来院しても、「あした、また来てください」ということもあります。土曜日にしか休みが取れないといわれても、排卵は曜日限定で起こるわけでもありません。職場に知られたくないと思う人も多いため、周囲の方の配慮に期待します。

また、カップルの間でコミュニケーションがうまく取れておらず、女性だけが問題を抱え込んでいる方も多くいます。

不妊治療にはさまざまな段階があります。自分たちはどこまで治療を進めるのか、いつまで不妊治療を行うのかなど、しっかりとカップルで話し合える関係をつくっておくことも肝要です。

費用の問題もあります。2022年4月から、体外受精などの基本治療は全て保険適用となりました。負担額が治療費の3割となるため、妊娠を希望するカップルの経済的な負担は軽減されます。一方、保険診療と保険外の診療を組み合わせて実施することはできないため、治療の選択によっては、費用の全てが自己負担となり、実質的な負担増になることも懸念されます。

仕事と治療を両立させるためには

近年、晩婚化等を背景に、およそ5組に1組のカップルが不妊治療を受けており、およそ15人に1人の子どもが、不妊治療によって誕生しています。働きながら不妊治療を受ける人も増加傾向にある中、厚生労働省が2017年度に実施した調査によれば、不妊治療と仕事の両立ができずに16%(女性の場合は23%)の方が退職しているとのことです。

仕事と不妊治療を両立させるためには、職場の理解が不可欠です。一部の企業では、不妊治療のための休暇制度の導入も始まっています。また、職場環境の整備に取り組み、不妊治療を行う人に休暇制度や両立支援制度などの利用を認めた中小企業事業主に対する「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」もあります。不妊治療だけでなく、女性の健康に関する勉強会をしている企業もあります。

まずは職場の管理職や人事担当者の方が、不妊治療を行っている当事者の困難に寄り添い、制度面や心理的な面でのサポートを切に願います。当事者のプライバシーを守りながら、妊娠・出産を望むカップルのストレスを少しでも軽減できるよう、社会全体でのサポートが求められています。

監修:原田美由紀先生

東京大学医学部 准教授

東大病院総合周産期母子医療センター

近著『知っておきたい不妊症・不育症ガイド』(時事通信社)

 

Column

高度不妊治療を受ける女性の約半数がメンタル不調

2021年4月、国立成育医療研究センターの研究グループが行った調査によると、体外受精などの高度不妊治療を受ける女性のうち、軽度以上の抑うつ症状ありと判定された割合が54%との結果が出ました。

抑うつ症状まで至らなくとも、不安が高まっている状況と判定された割合も、39%と高い割合となっています。

調査対象者は500名ですが、わが国では年間約45万件(周期)の不妊治療が行われており、多くの女性が、心身に負担を感じながら不妊治療に臨んでいることが分かりました。

不妊治療の保険適用や、休暇制度の導入など、制度面での整備は進んでいるようにみえます。一方で、不妊治療を受ける女性に対するメンタルヘルス面での支援は進んでおらず、社会的サポートの必要性が示唆されています。

 

提供元:健康保険組合連合会(すこやか健保2022年5月号) **禁無断転載**

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